「きみの腦はなぜ「愚かな選択」をしてしまうのか」(ダグラス・T・ケンリック ヴラダス・グリスケヴィシウス 著、 熊谷 淳子 訳/講談社)を読みました。
かな〜り面白いです!
サブタイトルに「意思決定の進化論 」とある通り、人間の色々な場面での”選択”がどのような意思決定に基づいているかを進化心理学をベースにして解きあかそうという本です。
古典的経済学では「人間は常に合理的な選択をするものだ」という前提があるのに、実際の私たちはしょっちゅう合理的とはいえないような選択をしてしまうのはなぜか?という点について、行動経済学の「人間の選択には様々なバイアスがかかっているので、時々間違えてしまう」という解釈を紹介しつつ、もう一歩踏み込んだ解釈を教えてくれます。
その解釈が、進化心理学をベースにした、
「人間は、様々な問題に対処するため7人の自分(下位自己)を持っており、どの下位自己がメインにいるかによって判断基準が異なる!」という面白い理論です。
下位自己とは
それぞれ決まった進化上の問題を担当する賢い男女からなる祖先ゆずりの長老評議会と考えてもらいたい。
第2章 七人の下位自己
だそうです!
目の前の問題の種類によって、7人のうちの誰が担当するかが決まるらしい。
ここらへん、2015年公開のディズニー/ピクサー映画「インサイド・ヘッド」にちょっと似ています。
映画では頭の中の”感情”が擬人化して描かれていましたが、頭の中には問題解決を担当するちょっと賢そうな人もたくさん(本によると7人)いるってことですね。
それぞれの下位自己はこのように説明されています。
- 自己防衛の下位自己(夜警)
起こりうる身体への危険から逃れる- 病気回避の下位自己(脅迫的な心気症者)
病原体に関連するものから逃れる- 協力関係の下位自己(チームプレーヤー)
人に好かれたがり、友人扱いされたがる- 地位の下位自己(野心家)
尊敬されたがり、人を尊敬するのに理由を求めたがる- 配偶者獲得の下位自己(自由奔放な独身者)
恋人候補の目に自分がより望ましく映るような行動をしようと努める- 配偶者保持の下位自己(よき妻、よき夫)
ふたりの関係が長期にわたり順調につづくよう努める- 親族養育の下位自己(愛情深い親)
困っている弱く幼きものが適切な世話と注意を受けられるよう努める第2章 七人の下位自己 より抜粋
面白いのは配偶者の「獲得」と「保持」は別の下位自己が担当していること。
結婚後にフラフラと不倫しちゃう人は「配偶者獲得の下位自己」がずっとメインで活動しているということでしょうか?
そういう人は、自分の中の「配偶者保持の下位自己」を起こさないといけないですねw。
あと、進化心理学的にはこれらの下位自己は成長とともに順番に現れるそうです!
人の成長と合っている感じですね。
既婚子ナシの私のような人が、最近小鳥を飼い始めたのも「親族養育の下位自己」が目覚めたってことでしょうか!ワォ!
ただ、これらの下位自己は先祖からずーーーーーっと受け継がれているらしいので、現代社会での意思決定ではそぐわなくなっている場合もあり、そういう選択が一見すると「愚か」に見える意思決定となってしまうそうです。
例えば
- ホイールに金メッキをほどこした映画俳優のキャデラック
- 歯にダイヤモンドなどを埋め込んだ装飾
- 怪我や事故につながるような危険な遊びや運転
なども、本人の自覚している理由以上に「配偶者獲得の下位自己」の合理的な判断の元に行われているとのこと!これらはオス孔雀の羽のようなものですかねww
(わざわざ価格の高い)エコカーに乗る、なども「地位の下位自己」が関わっている。とか、様々な実験や調査の結果が示されているので面白いです。
また後半では、「生き急ぐ人とそうでない人の違い」を説明するために、生活史戦略にも触れられています。
自分が育ってきた環境がどのようなものかによって、楽しみを後にとっておく(遅い生活史戦略)か、今すぐに消費する(早い生活史戦略、いわゆる”生き急ぐ”)タイプかが変わってくるそうです。
不安定な環境で就学前の幼児期を過ごした経験が、セックスの相手の多さ、攻撃性と非行性の高さ、成人してからの犯罪歴を予測する最強の判断材料であることを突き止めた。
第6章 生き急いで若くして死ぬ
だそうです! 怖。。。。。
確かに生き急いだ感じの人っているので、本人が自覚しているかに関わらず無意識下では「早い生活史戦略」を取っている訳ですね。
若くして大金を手にした有名人なども「早い生活史戦略」の例として挙げられています。
あと、人間のこのような特質を利用して悪事を働いたりこちらを騙そうとする人もいるらしいので、そのような事例も紹介されています。
(人々の「協力関係の下位自己」に取り入って、仲間と見せかけてお金を騙しとる詐欺師 等)
事例や実験結果が豊富に紹介されているので、それ自体がとても楽しい読み物な上に、自分というものを新しい視点で考えることができる面白い本です。
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